★着物選びで失敗しないために知ってほしいこと(ウレタン)—着物クリーニング―

振袖や留袖、子供の祝い着など、お祝いの式典で着るための着物は、小紋や紬や訪問着のように何度も着ない事が多く、たんすに眠ったままになりがちです。そして又、華やかで立体的な「載せ(のせ)友禅」の手法が施されているのも、こうした着物によく見られます。何年かぶりにたんすから取り出してみたら、その柄がベタベタしていたり、生地に貼り付いて剥がれてきたり…そんな悲しい経験をされた方もおられるでしょう。

 

その原因は、「ポリウレタンの劣化」です。ボロボロになる柄に使用されているポリウレタンには、寿命があるのです。子供や孫の代へ長く受け継ぎたい着物、他の部分はまだまだ綺麗なのにそんなところに寿命があったなんて…。あってはならないことですね。着物のお手入れの専門家としてもなす術がなく、そういう着物に出会うと心が痛みます。今回はせめて多くの人々に知って頂くべく、少し専門的なお話を致しましょう。

 

 

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ポリウレタンは衣類や、合成皮革にもよく用いられます。靴類(和装の草履も)、かばん、ブルゾンなどでは似た経験をほとんどの方がされているのではないでしょうか。買ってから何年か経って表面がボロボロになってきたとか、ベタベタしてきたとか、スポンジ素材から白い粉がたくさん吹き出てきたとか、これらは全てポリウレタンの経年劣化が原因です。ポリウレタンは伸縮性や水溶性があるため、繊維としてストレッチ素材に織り込まれていたり、素材として靴やかばんそのものが作られていたりする他に、コーティング剤や固着剤(バインダー)としても使いやすいため、よく使われます。

 

劣化により表面が剥がれたサンダル。

 

ですがポリウレタンは「水」や紫外線に弱く、空気中にも湿気という水分があるので、作られた時からすでに少しずつ劣化が始まっています。これを加水分解と言います。1年〜3年も経てば、ベタつきや剥がれなど、劣化が表面に表れてきます。もうこのかばん、寿命だな。気に入っていたのにな、と、捨てた経験が私もあります。あれがそうなんですね。

最新の科学では優れた安定剤も開発されていますが、まだ市場に出回っているとは言えず、劣化は成分的に防げないのです。

 

劣化により表面が剥がれたバッグのベルト。

 

さて、着物の場合ですと、先程お話したコーティングやバインダー(固着剤・のり)に、ポリウレタンが使われているのが時々あるんですね。冒頭で述べた振袖や留袖、祝い着などでたまに見かけます。「載せ(のせ)友禅」と呼ばれる、柄が立体的な物に含まれていますが、全ての載せ友禅がそうではありません。バインダーとは、実はすごくたくさんの種類の物があるんですね。例えば、金の粉や金箔を着物の生地に貼り付けたい場合は、何らかののりを使わないとくっつきませんよね。それがバインダーです。昔でしたら、お米を練った物や膠や松ヤニも、バインダーの一種でしょう。

どんなバインダーを選ぶかは、作り手側の判断によるところです。着物のように、柔らかく伸縮性のある生地に載せるには、硬いとひび割れが起きたり剥がれたりするので、ウレタンバインダーのような柔らかく伸縮性のあるバインダーが好まれます。また、そんな風に剥がれる柄という意味では、他にもアクリルバインダーの一種にもあり、ポロポロと金が剥がれて、ここにあった筈の金粉(砂子)がいつのまにか消えていた、という例もあります。

 

ポリウレタンのバインダーは、90年代に問題になり、使用禁止になったのですが、何年か前からまた、時々見かけるようになりました。

 

平成6年の京都染織試験場(現在の京都産業技術研究所)の機関紙より。

 

もう一つおわかりいただきたいのは、バインダーの劣化は、“ドライクリーニングが原因で起きているのではない”という事です。例えば、まだ劣化が表面に表れていなくても、やがてベタつきや剥がれが出るタイプの載せ友禅であるようなら、丸洗いをきっかけに劣化が表面化することはあるかも知れません。見た目ではわかりませんが、私達は慎重に検品し、これまでの経験から、ウレタンバインダーとおぼしき疑わしい物は丸洗いはやめた方が良いとお伝えして、手元で部分洗いをさせて頂き、事故を未然に防ぐようにしております。しかしウレタンバインダーは必ず劣化するため、どんな形で保管しても、丸洗いをしてもしなくても、防ぐ事は出来ません。

 

剥がれてしまった柄は、打ち合ってくっついた物を落とす事は可能ですが、それも程度により、かなり硬い物や腐敗したものは生地が破れるため、とれない事もあります。まだ軽い場合は、見た目では元のように綺麗にお直ししたり、一時的にベタつきを押さえたりすることはできますが、いずれ剥がれてきます。

 

金の柄が剥がれ、打ち合って無地場にうつっています。

粘着質になっているので、間に挟んである薄紙が貼りついています。

 

金彩友禅や載せ友禅の世界では、色や柄などデザインの美しさだけではなく、どんなバインダーや技法を用いるかなど、高い技術と知識が必要です。高名な作家の先生方や、優れた職人さんや工房の作品は問題が起きないので、そこにも多くの人々から愛される理由があるのでしょう。そうした着物はお手入れさせて頂く私達も安心して作業ができて、長く受け継げることにもなるので、お値打ちがありますね。

 

最近はネットや通販で簡単に着物が買えますが、昔から着物を扱われている百貨店や呉服屋さんに足を運ぶと、詳しくいろいろ教えて下さいます。まだ着物に慣れていない方は、初めはネットで買うよりも、何軒か訪ねてみられて、御自分に合った専門店を見つけると良いですね。

(ブログ「剥がれる柄•抜け落ちる柄•消える柄」も合わせてご覧下さい。)