☆伸縮によって袋が出来るのは、丸洗いが原因でないとしたら… ―着物雑学―

前編では、袋の説明と、湿気や圧力について少しお話致しました。

丸洗いでは縮みません、とお話致しましたね。今回はまず、その説明からさせて頂きましょう。

 

着物を丸洗いする場合には、有機溶剤を使いますが、それは衣類にダメージを与えない精製された油状の溶剤なんです。型崩れする事もありませんし、ご家庭では使えません。ご家庭でお洗濯するのはお水ですね。水洗いは例えばポリエステルのような石油系化学繊維には最適ですが、天然繊維の衣類には多かれ少なかれダメージを与えます。ですから、特にデリケートな衣類には適していません。絹はもちろんのこと、ウールのセーターやスーツ、ドレスなどもそうですね。

 

ティッシュによる水と溶剤の実験(濡らした直後…溶剤の方はすでに乾き始めています。)

(30分後 乾いた状態…溶剤のほうは始めと変わらない状態ですが、水のほうはもう元には戻りません。)

 

水洗いではないので、水性の汚れはドライの丸洗いでは落ちませんが、皮脂や油煙と呼ばれる空気中の油成分が糊代わりになって付着している汚れや黒ずみは、油性の丸洗いで充分落とせるのです。

ですから、表面的な汚れはドライクリーニングの丸洗いで落とせて綺麗になるのですね。(ブログ「丸洗いと洗い張り」参照)

 

ごくたまに、「初めはこんな風になってなかったのに、丸洗いしたから縮んだのではないか?」とお問い合わせがあった時にご説明しておりますが、有機溶剤による丸洗いでは縮まないという事がおわかり頂けたかと思います。着物の場合、ご自宅では気づきにくいためわからなかったけれど、お預かりした時から袋はあった、という例がよくあります。ですからしるくらんどでは、お預かりして一番始めに一枚一枚吊るして袋のチェックをして、記録しています。

 

 

例えば、着用じわがあるまま仕舞い込まれていたりすると袋はしわに隠れてわかりません。また、長年たとう紙の中に仕舞い込んでいた着物も、置いて見たのでは袋はわかりません。そういう場合、裾ではなく肩山袖山の裏などに袋は溜まっている事が多いので、たたんである状態でチラッと裾をめくってもわかりません。お手入れで綺麗にお仕上げをして整理するからこそ、本来の姿が表れてくるのですね。それで、お手入れに出したから縮んだのではないかと勘違いされる方がたまにおられます。

でも、検品時には、収縮の目安のために毎回同じ位置(右の袖丈)を20年以上計測していますが、丸洗いが理由で縮んでしまっている!!という事故は一度も無いんですよ。

 

冒頭の画像の紫の色留袖。たたまれた状態では袋は見つかりませんが、吊るすと始めの写真のようにわかります。

 

ですから、お預かりした時から袋は入っていたという事が多く、お客様も御理解されます。きつい時にはご連絡致しますので、この時点でお直しをご依頼される方もいらっしゃいます。

ではなぜ、気付かないうちにそうなってしまったのでしょう。またなぜ、気付かなかったのでしょうか。

 

その原因で一番考えられるのは、縫製前の下処理加工です。例えば、湯のしで引っ張り過ぎた状態で縫製し、その後経年により表地が本来の寸法に戻るために少し縮んで、八掛けに少し袋が入った、という例もよくあります。しかしこれは、生地によっては湯のしをしなかったとしても素材の特性で生じる裏地との収縮率の違い程度の物もあり、着用に問題が無い範囲の物もあります。それに胴裏は、特に古い物は、例えば汗抜きを繰り返したりして水分で糊気が減ると伸びてしまうのもありますから、表地が縮み裏地が伸びるとよけいに差が出てしまいます。又、逆に胴裏の方をかなり伸長されていたケースも過去にあり、その一連の着物は数点とも胴裏がかなり縮んでしまった為、表地にたっぷりと袋があってとても着られない状態になっていました。その胴裏は化繊で、こんな悪質とも言えるケースは例外ですが、このようになると、仕立て直しをしないと直りませんし、胴裏も取り替えたい所です。

 

或いは逆に、縫製前に縮ませ過ぎて経年により伸びた、という型崩れも稀に見かけます。御召や縮緬にあり、単衣にもよく見かけます。浴衣もそうですが、浴衣の場合は着ていると汗や熱で多少伸びるので型崩れしますが、水で洗濯するので再び縮んで、アイロンで整理すればある程度元に戻ります。

また、綿糸で縫われていたり、縫い糸や中とじ糸が縮んで袋になるケースもあります。

 

絹の場合、こうした例はいずれも古い着物に多く、それだけ何十年も大切にされて来た証しなのかも知れません。袋が入るほど長く愛用した着物は、お手入れやアイロン仕上げで元通りになるものではございませんから、一度洗い張りしてまた仕立て直すのが一番いいですね。

 

絹織物は空気中の湿気によって約5%~6%縮むと言われていますので、特にこれからお仕立てする着物には、是非防縮加工をお勧めいたします。しるくらんど取り扱いの防縮加工は京友禅の伝統技術から生まれた化学薬品や、樹脂を一切使用せず、蒸気と水だけで行う防縮加工【シュリンク・プルーフ】です。単衣や襦袢はご家庭で手洗いもできる加工ですから、お気軽にお問い合わせください。

 

(2009年の新聞記事より) ここから実用化に向けて企業や職人が努力を重ねてこられました。

(京都市産業技術研究所発行 令和2年度版 成果事例集より)

弊社での試験。同一条件で水洗い後、加工無しの方は大幅に縮みましたが、加工有はほんの少し(生地にもよります)で済みました。

 

しるくらんどでは、仕立て直しによる袋直しも承っております。

ご相談・お見積りは無料です。

 

気になった方は、虫干しがてら、一度きものハンガーに吊るして見てみてくださいね。