☆問題になった化学染料・特定芳香族アミンと硫化染料 ―着物雑学ー

古来からの長きに渡る染色の歴史上において、使われなくなった染料には理由があります。今回は最近消えていった染料についてお話致しましょう。なぜならこれも着物のお直し、色補正に深く関わってくることだからです。

 

以前、三度黒の事をブログに書きましたが(染料で染めていない黒「三度黒」とは?)染色は化学です。染料も時代につれて入手困難になったり廃止されるなど様変わりして、成分が変われば多少なりとも色も変わります。ですが染色は色が決め手ですから、染料が変わっても同じ色を再現出来ればいいわけです。染め屋さんでは「調色師」「色合わせ」等と呼ばれる色専門の職人が色の道ひとすじにその技を磨いていますが、私達 染色補正士も同じ思いで取り組んでいます。

 

染色には、藍染めや大島紬に用いるような天然染料と、酸性染料や反応染料、直接染料等の化学染料とがあります。生地との相性はそれぞれですが、絹はどの染料にでも比較的よく染まります。振袖、留袖、訪問着等に代表される後染めの柔らかものには主に酸性染料がよく使われます。インクジェットプリントの振袖には、反応染料がよく使われています。反応染料や直接染料は綿にもよく使われています。今回お話するのは、そういった「化学染料」の中の一部です。

 

まだ記憶に新しいのは、2016年の「特定芳香族アミン」問題です。発がん性物質が検出されて、アゾ系の染料の一部が廃止された為に、アパレルの染色業界も全て対応に追われました。発ガン物質と言っても、口腔摂取や、直接皮膚に染料が触れて汗をかくなどした時の微細な変化によるものだそうですから、消費者側にはそれほど案じる物でも無さそうですが、染料は微粒の粉末のため、空気中に気化して漂っていれば体内に入る事も考えられるので、廃止されました。

 

でも、古い着物の端切れを使ってマスクを作る時は、注意して下さいね。あまりおすすめはできません。

 

アゾ系染料は当時業界が、色は変えずに別の染料で染色するなど必死で対応して、現在は使用されていないそうですが、お手入れの仕事をする私たちにとって、もっと恐ろしいのが硫化染料です。

硫化染料は不溶性の染料で、浴衣など、主に綿の染色によく使われています。染料が、というよりは染めの処理工程の問題ですが、染料に硫黄が含まれているので、高濃度で使用された場合、洗浄がよく行われていないと、経年により酸化して硫酸が発生し、生地が灰のようにボロボロになってしまいます。

硫化染料による故障

浴衣に発生した破れ(和装故障事例集より)

硫化染料による故障

和装故障事例集より

硫黄+酸化=硫酸化…怖い話ですね…

 

但し浴衣やTシャツは、新しいうちに着て何度もご家庭で洗濯されれば濃度の濃い不溶性の染料が洗浄されて薄まり、大事に至らなくて済むケースもあるようです。

くすんだようななんとも言えない味わいのある色なので地色より柄に使われて柄だけがボロボロになることもあります。事故が起きるとしたら高濃度の場合なので、薄い色にはあまり無いようです。(以下イラストですが、このようにはっきり抜け落ちたような場合もあります)

硫化染料損傷前

硫化染料損傷前 

硫化染料損傷後

硫化染料損傷後

硫化染料損傷前

硫化染料損傷前

硫化染料損傷後

硫化染料損傷後

 

お手入れ業界でも伝説のように語られているレアなケースですが、私は今までに一度だけそれらしき着物に出会った事があります。証拠もなく定かではありませんが、貴重な体験をしたと思っています。

しかし、この記事を書くためにいろいろ調べていたら、中国製の浴衣で最近もそういった事故があったという事例もありました。一見した所ではわからないので見抜くことは困難な場合もありますが、

 

丸洗いして柄の一部の色がボロボロになるような事故が起きたら、それは丸洗いが原因ではなく、原因は硫化染料かも知れません。

 

芳香族アミンはアパレルや着物業界では有名な話ですし、硫化染料はクリーニング業界でも有名です。消費者様の立場からは、経験値と知識のある信頼できる行きつけの専門店があれば一番安心ではないでしょうか。でもお近くにそんなお店が見つからない場合は、しるくらんどにご相談下さい。私たちは事故を未然に防ぐべく、常日頃から色々な情報を収集し、社内で共有することを心掛け、またスキルアップにも励んでいます。

 

そうすることで私達は、お客様が何でも相談できて頼れる存在でありたいと願っております。お問い合わせはフリーダイヤル、LINE、リモート、メールなど、お好みのツールをご利用ください。ご相談は無料、ご相談だけでももちろん構いません。お待ちしております。