☆ 比翼って何のためにあるの? 着物の格と比翼の謎 ― 着物雑学 ―

ーーー 比翼って? ーーー

 

比翼仕立て と言って、もう一枚着物を着ているかのように見せる白い布が付いている着物をご存知でしょうか。

裏返した黒留袖

衿や袖、身頃の下半分に付いています。

主に黒留袖と色留袖、たまに振袖や七才参りの祝着などにも色比翼が付けられています。

それは、“喜びを重ねる“の意味でお祝い事の式で着られたり、“格が高い事を表現する“ための場合もあります。

 

元々は長襦袢の上に白い着物(下着)を着て、その上に黒留袖を着ていたようです。そうすることで正装の中でもワンランク高い第一礼装に格上げされていたようです。

比翼

下着仕様の比翼は現在でもあります

 

しかし、この“黒留袖“そのものがまだ比較的新しい着物なんです。明治時代に洋装のブラックフォーマルが入ってきてから和服でも黒の礼装として登場したもので、そうなると比翼もそれほど歴史のあるものとは言えません。

そう言えば、時代劇では見掛けませんよね。もしかしたら黒の燕尾服の中にホワイトシャツを着る洋装になぞらえたのかな?なんて推測してしまいますが、それが正解で、洋装の正装に対抗するように生み出された、和服で一般人向けの正装が黒留袖です。(ちなみにYシャツってホワイトシャツから来てるらしいですよ)

礼服一例

 

黒留袖のイメージ

黒留袖の図

着物文化検定 公式教本より

そしてやがて二枚着物を着るのは大変だからと、衿や裾回り、袖口や振りなど、外から見えるラインに沿ってあらかじめ“見せ下着“の布がつけられる“比翼仕立て“が主流になって行きました。特に伝統や謂れがあるわけでもないので、令和時代の今となってはそこに疑問を感じる声もチラホラ上がってきているようで、比翼無しの方もお見掛けします。昨今では、式で着物を着て参列するだけで充分喜ばれる場合もありますからね。衿回りだけなら白い伊達衿でも意味は変わらないようにも思えます。

 

ーーー 格って? ーーー

 

さて、こんな風に着物には「格」という耳慣れない尺度・ルールが存在します。

伝統を受け継ぐ世界のように、生活の中に着物がある家庭に産まれた方は抵抗が無いかも知れませんが、

着物をファッションの一つとして着たい、自由に楽しみたい、と思う方には少し抵抗がありますよね。それが着物離れの理由の一つと言われているくらいです。着物の見方としては、どちらの見方も正解で、間違ってはいませんものね。(*格が高い、敷居が高い、価格が高い、の三高が着物離れの原因と言われています)

 

その両者を取り持つわけではありませんが、なぜ着物に「格」があるのか、納得できる部分が二つあるのでご参考にお話致しましょう。

 

①  式で着る場合は「格」という言葉を「礼儀」「敬意」に置き換えてみる。

大切な式、又は大切な方の式は、最大限 厳粛で丁重な姿勢で執り行いたい、おもてなししたい。敬意や感謝の気持ちを精一杯表したい。表彰式や結婚式にTシャツとGパンで出席しませんよね。

②  日本では古来から、人民を階級分けしてきた歴史があるため。

そして同時に古来からの伝統衣装である着物も必然的に階級分けされてきた歴史がある ということです。その名残りが着物にはあり、それを守る部分と時代に合わせて新しく変わる部分とが混同しながら現在まで伝えられて来ている。

 

この二つの点を思うと、「格」があるのも頷けますし、失礼の無いようにしたい席では、この「格」に沿って振る舞いたいと自然にそう思えてきます。もちろんそれ以外の時は好きな着物を自由に着て楽しみますが、比翼がある事で格が上がり、敬意が伝わるのなら、着用する意味もあるのではないでしょうか。

 

ーーー 比翼仕立ての取り扱い ーーー

 

専門店ではもちろんそのままでお手入れ・取外しも出来ますし、お取り替えも出来ます。素材により、シルクですとしみぬきで綺麗になるものが多いですが、アセテートですと薬品が使えないため、とれないしみもあります。また、シルックなどの場合は黒ずみやすいですが、外して丸洗いしてまた付けたらスッキリと綺麗になります。

黒留袖の比翼に出来た変色

白い衿比翼や袖口比翼は汚れが目立ちます。

比翼仕立ての物は、生地が重なる部分が多いため保管中の通気性が悪くなりがちです。保管の際には、間にはさんである輸送用の紙やパットは外して、時々虫干しをして、カビ対策をお忘れなきよう。長く使用されない場合は、外して別々にするのも一案です。(取り外し、付け直しは有料で承っております)

また、しるくパックやデオファクターなどの加工も、お手軽で安心です。ぜひ御利用ください。