★消えないしみの共通点と、ついた時の注意点 ―着物クリーニング―

〈今回は、関連ブログのリンクをたくさん貼ってあります。もっと詳しく知りたい方は、合わせてお読みください。〉

 

私達は毎日、着物のしみ抜きという専門職中の専門職みたいな仕事に励んでおりますが、中には消えないしみもあって、そこには共通点があります。どんなしみでも最終的には生地との兼ね合いですから、生地は綺麗なまましみだけがとれるのが理想だとすれば、いくらしみが取れても生地がボロボロになったのではどうしようもありません。それが「消えないしみ」に入る場合もあります。

 

ですが着物は繰り回しなどの仕立て替えをしたり(ブログ着物は一反全て使って作ります)、柄足しや金加工など、様々な方法でまた美しく甦りますから、そこはご安心ください。

しかし、しみ抜きという観点から申しますと、お洋服にも同じ事が言えますので、参考にして下さいね。

 

シミの構造

ドライクリーニングで落ちるのは一番外側の油溶性の汚れです。ご家庭でのお洗濯は洗剤を入れて洗うので、水洗いでも油溶性もある程度落ちます。(ブログ界面活性剤をわかりやすく解説してみました

汗など水溶性の汚れはドライクリーニングだけでは残りますから、部分的にでも水洗いが必要です。(ブログ「着物の丸洗いってどういうこと?」「丸洗いと洗い張り」)さて、そこから先がご家庭では困難なしみ抜きになってくるわけです。

三層めのタンパク質は絹素材では手ごわいしみになります(ブログ血がとれにくいのは何故?)が、今回はさらに一番下にある「タンニン」「不溶性」「色素」です。

 

 

――消えないしみの共通点――

 

①不溶性であり、ナノレベルの溶けない固体が繊維の奥深くからまって動かせない。

 

例えば、カーボン(炭素)、タンニン、錆び・鉄分(金属系)などもそうです。カーボンやタンニンは墨やインクに含まれているのもあります。(ブログ裾の黒ずみの正体は?

タンニンはいわゆる「渋さ」です。ちなみにアルカリ性は「苦さ」酸性は「酸っぱさ」です。タンニンは渋味ですから、植物に多く含まれています。わかりやすいのは柿ですね、柿渋・シブ柿もあります。柿渋は撥水効果や防腐効果があるようです。他にもタンニンは、薬用品やインクの原料、皮革の加工などにも用いられます。植物の多くに含まれていますから、

お茶、紅茶、コーヒー、ワイン、コーラ、ビール、も、そうですし、ウイスキーは樽に使われるオーク材にも含まれます。ほとんどの飲み物がそうですから、よくこぼしてしまう人は着物には撥水加工をした方が良さそうです(笑)。

 

②アルカリや酸に反応して発色、変色、そして消色する色素を含んでいる。

 

植物染めなど天然の染色はこの作用を利用するものもあるくらいですから、染めたのと同じような現象になります。

一番わかりやすいのはアントシアニンでしょうか。ぶどうやブルーベリー、赤シソ、紫玉ねぎ、りんどうやキキョウや紫陽花など、紫、青、赤の野菜や果物や花に多く含まれます。目に良いサプリメントでも有名ですね。

それとタンニンです。例えば大島紬も、タンニンを含む車輪梅と、鉄分を含む泥で染めます。

赤ワインは特に、このアントシアニンとタンニンを多く含んでいます。

それとまた、錆びもやはり反応します。

しみ抜きの現場では、これらの成分のものは、消えたり戻ったりを繰り返す事もあります。

 

つまり、消えないしみの共通点は図の中心の「植物由来(タンニン)」「不溶性」「金属物質(錆び)」ということになるんでしょうか。(ちなみにブログ固いしみを取る時は生地の状態に注意が必要です の固いしみは、この分類ではいろんな所に当てはまります)

 

厄介なものの一つに、消色・復色があります。これらのしみには、一旦消えてまた戻ってくる場合があります。それは、成分が消えていないからです。そういう場合は完全に消すことが困難な場合があります。

 

 

――ついた時の注意点――

 

こうした成分を持つしみは、付いてすぐが運命の分かれ道です。

・まず不溶性の微粒子であるなら、すぐはたく、又は吸い出す。決して濡らさない、こすらない。

泥、すす、車などの排気ガス、鉄錆び、などです。(こちらも、ブログ裾の黒ずみの正体は?をご覧ください)

・お茶やワイン、ビールなどのタンニン系がこぼれた時は、なるべく早く洗い流し、成分を残さない。後から出てくる場合もあります。熱をかけてはいけないので水で。アルカリ性に反応して黒ずむものもあるので、洗濯洗剤より中性の食器用洗剤の方がいいでしょう。

どちらも出来ない場合は触らずに豊富な知識と技術を持った専門店に依頼しましょう。

お気に入りのお着物やお洋服には、撥水加工をしておくと安心ですね。