♢着られない着物を生かす❕リフォーム出来る物・出来ない物。 ―着物生活―

これまでにご紹介したように着物には貴重な価値のある生地が使われている物が数多くあります。ですが形ある物はいつか朽ちてしまいます。しみ抜きや柄足しが出来るとは言え、何十回も繰り返せば生地も弱るし、繰り回しにも限界があります。昔の庶民は、結城紬や大島紬などは特に長く着るほど肌に沿う風合いが出ると言って擦り切れるまで着て、他の着物でも、子供の着物にして、腰巻きにして、布団にして、座布団にして、おむつにして、最後は雑巾にして、消えて無くなるまで一枚の着物を使い切ったそうです。

一枚の着物にはたくさんの生地が使われているのもこうして再利用するための知恵かも知れません。それほど紬や先染めの着物は再利用に適しています。着られなくなった着物は、捨てる前に有効活用出来ないか、ちょっと考えてみませんか?今では作られていない貴重な生地もあります。

バッグなど小さい物にリメイクする場合は綺麗な部分を使えば問題ないのですが、和服・洋服などの大きな物の場合は、ある程度の見極めが必要なので、今回は「着る物にリフォームする場合」の注意点をお話しいたしましょう。

○着られない着物とは?

着物に限らず何でもこの二つにわけられますね。

 ・ダメージは無い(けど着られない)

 ・ダメージがある(ため着られない)

 

✳ ダメージは無いけど着られない場合は

 ・しるくパックなどで長期保存しておく ・サイズが合わない場合は直すか反物に戻す(ときはぬい、洗い張り) ・色柄が好みでない場合は染め替えるなど ・専門のリフォーマー等に依頼してリフォーム、リメイクする。などなど、いくらでも活用できます。変わった所では、「着付けが出来ない、めんどくさい、帯がしんどい」などの理由で、サッと着られる簡易式着物や二部式着物にリフォームされる場合もあります。

 

柔らかい小紋を解いて水洗い。そのまま羽織れるガウンに兵児帯を巻いて。

染め大島を解いて水洗い。帯をして簡易着物に。ベルトで洋風に。

 

が、ダメージがある場合は千差万別です。ここからちょっと詳しくお話致しましょう。

 

✳ ダメージがあるため着られない場合は

私達のようなお直し職人が直せる場合は良いのですが、広範囲のため費用がかるのでご本人様があきらめる場合や、こちらがもうお手上げです、という場合もあります。例えば、

・全体に錆びがある・変色が濃く大きい・染色上、薬品が使えない・生地が弱って脆くなっている

など、様々です。(専門店で検品してもらうとわかります。しるくらんどでは、検品・見積もりは無料です。)中には、リフォーム、リメイクも出来ない物もあります。

 

錆がひどいものは、生地が弱っているので、破損する恐れがあります。 全体に移っている場合は再利用できません。

 

✳ では、リフォームが有効なダメージは?

他の物に作り変える事で美しく甦り、再び着られるようになる着物とは、

「どうしても直せないダメージが繰り回しの出来ない位置にある着物」ということになります。(ブログ「リサイクル着物を買う時に失敗しないために①着物編」参照)例えば、袖に大きな変色があったり、身頃でも胸あたりだと、足し布しても繰り回し出来ないこともありますし、すでに繰り回し済みの着物はもう出来ない事もあります。絵羽物は更に制限があるため困難です。が、一部を除いて使用する、羽織や帯や子供物にリフォーム出来る場合もありますし、ドレスやワンピース、チュニックなど洋服にも出来ます。形にもよりますが、洋服だと2、3着でも作れるので、上等やお気に入りは「着る物」にリフォームされる方がとても増えてきているようです。初心者向けの作り方の動画や本も安定の人気です。

 

✳ リフォームで失敗しないための注意点は?

一番注意したい点は「洗い方」です。羽織など和服にされる場合はあまりご自宅では洗われませんが、洋服にされる場合にもご自宅で水で洗えるのか洗えないのかは、区別して知っておく必要があります。

それにはまず、よそ行きか普段着かも、区別すると洗い方も分けやすくなります。着物が後染めの柔らか物の場合は、リフォームする場合にも、ドレスやワンピースが合うのでクリーニングに出しますし、普段使いの紬や木綿などの先染めの着物は、水で洗える物が多いので、正しい下準備をしてからリフォームすれば、ご自宅で扱いやすい洋服になります。

 

… 水洗い出来ない生地 …

 

水洗いをして柄が色落ちし、移染した生地。

 

・刺繍や金彩のあるもの・縮緬や御召などの強撚糸や変わり織(絽や紗は出来る事も)・色が泣くもの(濃い地や、柄や織糸の一部の濃い色が泣く事もある)・厚みが薄過ぎるもの、厚過ぎるもの(どちらも強めの糊が使われていることがある)・顔料や墨などで柄が描かれているもの。 などがあります。

 

左:振袖の巻きスカートと、両面染めのロング陣羽織。右:マジョリカ御召のチュニックワンピース。どちらも水洗いできません。

螺鈿や樹脂の柄がかわいい裾ぼかしのロングベスト。こちらも水洗いは出来ません。

 

ちなみに、柔らか物でも生地がシンプルな綸子などであれば、型染め、しごき染め、インクジェット、色無地など、洋服になれば水洗いしても大丈夫な染色もあります。それほどシワになったり縮んだりしない生地もあるので、解いてから掛け衿やダメージ部分などで洗って試してみるのが良いと思います。

 

綸子の小紋を解いて水洗い。見た目より汚れています。

シワにならないように部屋干し。縮みも滲みもなく、洗える素材に。

 

逆に先染めの生地でも、細かい縞や絣の場合、絣が泣いたり、縞の一部の色が泣いたりすることがあるのでこちらも試してみましょう。大島紬は泣きませんが、泥落ち、移染はあるので、下準備でよく水洗いしておいて、リフォーム後も単体で手洗いした方が良いですね。

 

解いて洗って干しているところ。

ジャンパースカートとキャミワンピース。大島紬は扱いやすく、リフォームしやすいので、洋服としても人気がありますね。

 

木綿の場合でも、厚みや織によって縮むことはあるので、まず水に漬け込んでからリフォームして下さいね。

 

着られない着物はこうして着られる衣類に再利用するのが古くからの日本の知恵と工夫であり、現代のSDGsの考え方でもありますし、一度挑戦してみるのも楽しいですね。

 

でも出来ない場合には、暖簾やタペストリーなら、解いて伸ばして吊るすだけで素敵なインテリアになります。始めは出来ることから始めてみましょう。