☆世界に誇るジャパンブルー・藍染めを正しく理解しよう―着物雑学―

藍染めは、日本古来からある代表的な草木染めです。現代のように化学染料の無かった時代には、鮮やかな青い色を作るのは難しかったため、藍染めのブルーは人々に愛されてきました。

藍染めはタデアイという植物の葉を発酵させて作る蒅という染料を用いて染める「発酵建て」が定番ですが、蒅は今では徳島県と北海道の一部(徳島の方だそうです)でしか作られていないそうです。ですから、藍染めは全国各地にありますが、原料となる蒅は、徳島県の「阿波藍」を使われている所がほとんどです。(生葉染めや乾燥染めなど、他の染め方もあります。)

蒅を阿波藍

黒い墨のような塊が蒅です

 

そこで今回は、本場徳島県の藍染めを見学に行きました。お邪魔させて頂いたのは「古庄染工場」さん。六代目の古庄さんは江戸時代から続く「天然灰汁発酵建て」に加えて、注染も取り入れておられて、黄綬褒章受賞、現代の名工受賞、徳島県無形文化財にも指定されておられます。

お店の看板

古庄さん

 

〜 蒅が出来るまで 〜

蒅

徳島県には吉野川という大きな川があり、訪ねた時もたくさんの水量が広い川を流れていました。洪水もよく起きたため、近辺では稲作は出来ませんでした。が、土壌は肥沃になり、伏流にも恵まれたため、短期間で収穫が出来るタデアイの栽培には最適となりました。平安時代の終わりから藍の栽培が始まり、江戸時代中期に全国的に木綿が普及したのと同時に藍も普及しました。やがて犬伏久助が改良を加えて「本藍」と呼ばれるようになり、「藍屋敷」が立ち並ぶほどに発展して行きました。

藍の館

藍屋敷

蒅は、プロの「藍師」の手仕事によって作られます。まず、農家で初春に植え、初夏から夏に収穫したタデアイを仕入れます。その葉の部分のみを刻んで二日間乾燥させ、袋に入れて保管し、準備が済んだら九月に「寝床」と呼ばれる小屋に3000Kg以上もの葉を移し、いよいよ発酵です。同量の水をかけ、混ぜ合わせて積み上げ、筵をかけ、4、5日寝かせる、という作業を約3ヶ月繰り返します。やがて黒く固くなり、モワッと湯気が立ちのぼるようになり、独特な香りも立ち込めてきて、完成します。

タデアイの畑

タデアイの畑。中央あたり、すでに黒い箇所が。インディゴを含んでいる証です。

 

〜 蒅を育てて染める 〜

徳島県で作られた蒅は、全国の染屋さんへ売られて行きます。

ブログ「植物だけで作られた久留米絣は全国の絣模様の先駆け」でも登場しましたね。

藍染めは、木綿、麻、レーヨンなどによく染まります。絹の場合は、セリシンには染まりやすいので、紬には染まるけど柔らか物には染まりにくいようです。(ブログ「先染め(先練り)・後染め(後練り)とは 前編」参照)

その理由は、ブログ「藍染めの浴衣の洗濯や着物の色移り」でもお話したように、液体ではなくものすごく粒子の細かい固体だからです。天然藍は5万ナノだそうです。

さて、染料は繊維に定着させるためには酸性またはアルカリ性に傾けなければならないわけですが、絹に染める草木染めには酸性に傾ける染色もありますが、藍染めはアルカリ性に傾けます。

蒅は一俵約58Kgあるものを約28Kgまで乾燥させて使います。そのうち色素は約4%だそうです。

ここから蒅を「育てる」「建てる」という表現が使われますが、まさにその通りで、染屋さん独自の違いが出てきます。古庄さんでは、古来からのやり方で天然物しか使われておらず、地下水を使用して木灰と糖蜜(昔は和三盆の絞り粕を使われていたそうです。ご当地名産ですね)と強力粉を混ぜた熱湯に漬け込み、発酵させます。やがて表面に「藍の花」と呼ばれる細かい泡の丸い固まりが出来ます。発酵が進むとアルカリ濃度が下がるため、石灰を足して濃度を上げて調整します。こうして天然の染液が出来上がります。

藍の花

映像より。藍の花

藍の液

古庄さんの甕。藍の花が見えます。

染液が青ではなく少し茶色がかって見えるのはこの灰汁(あく・不純物)のためで、生地を漬け込んで水洗すれば、灰汁だけが洗い流されて鮮やかな青が表れます。回数を重ねるごとに濃い青になるので、好みの色になるまで繰り返します。染液の色素は減って行き段々薄くなり、土曜日には一番薄くなりますが、日曜日一日休ませると、月曜日にはまた少し濃くなるのだそうです。面白いですね。

 

藍染めは浸染が多いため無地染めや絞り柄が定番ですが、古庄さんでは、注染も取り入れられてて、型紙を使っていろんな柄の藍染めを染められるのが特徴的でした。ブログ「浪花本染め(注染)の現場には創意工夫と技が詰まっていました」の時の取材で見たのと同じ装置があった事にびっくり。

バキューム台

バキューム台

水洗機

水洗機

糊置き台

糊置き台

型紙

型紙

更には、古庄さんがお仲間と手作りされたという大きな煙突までありびっくり。

更には、たくさんの新聞や雑誌の掲載記事や、何人もの著名人が訪れた際の写真もあり、びっくりすることばかりでした。

 

〜 藍染めの取扱い方法 〜

最後に、藍染めの正しい保管などについても伺いましたのでお伝え致しましょう。本藍染めは、大変長持ちして褪色もほとんどなく、扱いやすいです。補正士の観点から言っても有機溶剤によるドライクリーニングより水洗いの方が適しています。(絹以外の場合。単品で洗って下さい)怖がらずに洗って下さい。藍の黄ばみは、空気に触れると灰汁が酸化して表面でレンズのようになり際立ってくるためのものです。ですから、ビニール袋に入れて空気を抜いて暗い所に保管するのが良いそうです。黄ばんで来ても、変色や退色(色が飛ぶ)ではなく、灰汁が表面に乗ってるようなイメージなので、ぬるま湯で洗い落とせば黄ばみがとれて再び綺麗な藍色に戻る事もよくあるそうです。(ただし、程度によります)ですから「怖がらずに洗ってください」と仰っていました。ですが、本藍(正藍とも言う)に限ります。区別が困難な場合もあるため、現在では本藍を示す表示を付けようという動きがあるようです。品質表示

現代ではジャパンブルーとして世界的に有名になった藍染め。これからもいつまでも受け継がれて行く事でしょう。

娘さんが受け継がれていました

娘さんが受け継がれていました