♦浪花本染め(注染)の現場には創意工夫と技が詰まっていました。─着物コラム─

和晒しの注染の浴衣や手ぬぐいは日本の夏に欠かせない定番アイテムですね。これまでにブログ「藍染めの浴衣の洗濯や着物の色移り」有松鳴海絞りの人気を絞りまつりで実感しました」ので、藍染めや絞りの浴衣について語って参りまして、いよいよ注染の登場です。今回は、大阪府堺市毛穴(けな)の協和染晒工場様からお話を伺って参りました。祇園祭前でお忙しい中、ありがとうございました。

伝統工芸士の証書

毛穴町の手ぬぐい

手ぬぐいに描かれた、石津川に沿った和晒しと注染工場の分布地図

 

○ 注染とは

 

注染は、木綿の染色技法の一つで主に、東京、大阪、浜松で行われています。大阪府堺市の毛穴町では、気候や豊富な水が木綿の栽培に適していて、綿織物の流通のルートだったこともあり、「和晒し」は江戸時代から発展し、盛んに行われました。

「晒し」とは、木綿の染色の前処理の工程で、不純物を取り除いて漂白し、真っ白な生地に整えることです。「和晒し」は釜で煮るので柔らかい風合いに、「洋晒し」はローラーに挟んで薬品に通して行くので固い風合いになるそうです。堺の「堺晒し」は現在7軒の工場があり、日本の晒しの90%がここで製造されていて、浴衣や手ぬぐい、はっぴ、ガーゼなどになります。

木綿の種類

堺の和晒しの種類(堺伝匠館の展示)

工場内の白生地

工場内に積まれた白生地。

 

さて、注染は1887年(明治時代)頃に大阪で始まり、第二次世界大戦の際に和晒しの工場のある毛穴町に移り、共に発展してきたそうです。手作業による木綿染色の中でも注染は堅牢度も良く、ご家庭でも扱いやすいため、広く愛用されています。その特徴は、

  •  多色使いが出来る
  •  表も裏もよく染まっていて色落ちがない

などがあげられますが、堺の注染は「ぼかし」などの“技法”が使われているのも特徴です。

2019年には、「浪花本染め」という名称で国の伝統工芸品に指定されました。

手がけた手ぬぐい1

手がけた注染生地2

 

しかし何より特徴的なのはその染め方です。木綿だからこそ出来る染め方ですので、ふだん、絹の染色補正をしている私達にとってはなんとも面白い染め方で、不思議な部分もあったのですが、現場で見させて頂いて謎が解け、納得致しました。

 

 

○ 注染の工程

 

①防染

  •  ナイロンの紗が張られた型紙(伊勢型紙やパソコンで作ったもの)を専用の糊置き台に設置する。

たくさんの型紙

たくさんの型紙

生地を設置する様子

型紙と、生地を設置する様子

 

  •  型紙を倒し、外側になる始めの二、三回は、何度も使い回している生地に糊を置く。白生地を幅がずれたりシワが入らないよう注意して生地を置いては大きなヘラで糊を置き、何度も折り畳んでくり返して行く。

糊置きの様子

※この糊が、絹の染色とはかなり違い、「山の土」と仰ってましたが、サラサラの粘土。それに布海苔(ふのり)と硫酸アルミニウムを入れるそうです。絹用の伏せ糊ほど粘着が強くないように見えました。糊を置いた部分は、染まりません(防染)。

防染用の土

 

 

②染色

  •  糊で固められた一つの固まりになると、染まる所だけ白生地が残っていて、そこに染料を注ぐので、注染という。くっつかないように上に撒いているのはおがくずではなく砂。

砂で接着を予防された反物

  •  固まりを染める台に移す。台はバキューム台でペダルで吸引出来るようになっている。まず全体にお湯をかける(硫酸アルミを流す)。そして色ごとに糊で土手を作り(ケーキのデコレーションのような絞り筒)そこに指定の色の染料を注ぐ。注いだお湯や染料はバキュームで引いて地面に掘られた溝へ。

足元のバキュームで染料を吸い込んでいます

 

 

  •  土手で区切れる柄の場合は、一度にいろんな色を染められる。柄によっては、一度乾燥させてから違う色を染める事もある。

二色染めの様子

 

  •  表裏共に染色が終わったら定着剤(フィックス剤)をかけて、定着させる。
  •  中の生地も綺麗に染まっているかチェック

中の生地も綺麗に染まっているかチェック

 

③水洗、乾燥

  •  横のプールですぐに洗っても色は定着して落ちない。

水洗の様子

※ここが絹とは最も違う所で、「乾燥→蒸し」の工程が無いのですぐ洗って糊を落とせます。また、糊も簡単に落ちていました。手で少しザブザブと洗ったら、機械のアームに掛けて振り洗いをして、大きな脱水機へ。

反物を機械で水洗している様子

機械水洗の様子

 

  •  そのあと、立てに干す。立て干しも注染の特徴です。シワ伸ばしなどの整理は、専門の工場に出します。

反物が、高さ6m程ある竿にかかっています。

 

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  •  こちらは、一度紺色に染めてから、漂白剤を通して色を薄くして使い込んだような風合いを出す技法。

抜染の様子

 

  •  溝に流された染料や糊の洗い水は、大きなタンクに貯められ、不純物は沈殿させて上澄みだけを流します。

貯水槽

 

  •  また、向かいにある別棟では、顔料(または染料を固めたもの)で染めるスクリーン捺染が行われていました。堺市では捺染も有名です。

捺染用機械

 

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注染は職人の手仕事ですので、有名アパレルメーカーなどで量産されている浴衣や手ぬぐいと違って、同じものは一枚も出来ません。同じ柄でも並べてみると、微妙に色が違ったり、少しずれていたりしたら、それは注染の味とも言えるでしょう。若い方や女性も働かれているので、新しい物も生まれるでしょうし、これからがますます楽しみになりました。

お店でもひときわ目を引く色とりどりの注染のアイテム。知れば知るほど好きになりますね。