♦着物の染め替えの色を何色にしたらいいか悩んでいる方へ。染色補正士からの色のお話ー着物コラムー

私たち染色補正士は、仕事で毎日、色を扱っています。“色”について語ろうとすると壮大なスケールで(笑)、大変難しいテーマなんですが、私達の色との関わり方はちょっと特殊で、あまり日常生活ではやらないような関わり方なんですね。そこで今回は私達の視点から見た色のお話をいたしましょう。

 

‶この色をどんな色にしたいか″

 

私達の目指すゴールはいつもそこです。日常生活では、今ある色と色との組み合わせを考えることはあっても、例えば「この赤い服を紫にしよう」など、色を変えるという発想はそんなにありませんよね。毛染めくらいでしょうか。ちなみに筆者は引染め屋さんで毎日色を扱う仕事を7年勤めたのち、染色補正の仕事に就いて現在で15年、ずっと色の道を歩んでいます。その経験を生かして、例えば染め替えをしたいけど、「色をどう替えたらいいのかわからない」などの時に参考にして頂けるようなお話をしたいと思います。(染め替えについては★きものの色を変えたい!染め替えの利点と注意点―着物クリーニング―♢目引き染めをもっと詳しく!染め替えを実際に体験しましたー着物生活ー を参照ください) 

 

○ 色の基本

色相環

色の基本を知っておくと、日常生活でも役立ちますので、簡単にお話いたしましょう。色を分類するには、色相・濃度・明度の基準があります。わかりやすく言うと、色相とは、赤、青、黃、といった色名、濃度とは濃いか薄いか、明度とは明るい(派手め)か暗い(地味め)くらいに解釈してください。そして、マンセルの色相環による補色(反対の位置にある反対色)も、私達の仕事には重要ですし、更に忘れてならないのは、「色調」です。色調というのは、日本のように四季のある国では、春夏秋冬に分けるとわかりやすいですね。それぞれ色味の違う風景写真が、観光地には必ずあります。そんなふうに○○調、○○風の色ってありますよね。私達と仕事では、毎日「日本調」つまり日本色、和名と言われる平安時代からの伝統色に携わっています。こんな風に業界によっても色調は変わりますから、経験や感性、センスを養うのも大切です。

春夏秋冬の色

春夏秋冬に分類した色の一例

 

○ 色の足し算引き算

白生地に染め分け

いろんな染料を白生地に付けるなどして、色を身につけていきます

これは「下色を計算する」という事です。白い物や無色透明な所に色を付けるのでしたら、なりたい色を作れば(色合わせ・調色)いいのですが、下にある色が混ざってくる(立ってくる)場合は、その色を引き算した色を作り、つけたい所に足し算します。青い生地を紫にしたいから赤をかける、といった事です。

私達の染色補正の仕事は、ほとんどの作業にこの計算が含まれていますが、特徴的なのは、なりたい色は「元の色」という所で、元の色に戻すのが仕事と言ってもいいくらいゴールははっきりしています。(全体が褪色している場合は、それを「元の色」として色を合わせていくという例外もありますが)

補正の様子,補正中

しみを抜いて剥がれた色を計算して入れていきます

補正の様子,補正後

色補正完了

そうするためには、

① 元の色より薄くなければならない

② 反対色からは、その色になれないので色目を引いて近づける必要がある

という鉄則があるので、そのためにしみや変色を漂白したり脱色したりしているのです。ですから、そのしみや変色がとれない場合は元の色には戻れないので、柄を足したり、色を染め替えたりするわけです。

(そして更に、染料の種類や繊維の種類とその相性も欠かせないのですが今回は省略します。)

 

○ 色を好む

 

好む、というのは、選ぶ、ということで、業界用語でお客様の指定された色・出された色を「この色を好まれた」という言い方をします。さてこの色を好むというのがなかなかの難関です。着物や化粧品のように今ある色から選ぶだけでもたくさんあって迷うのに、例えば染め替えのように「どんな色にしたいか」なんてなかなか決められなくて当然です。ご自分のセンスに自信があって、好みがはっきりされてる方でも、先程お話した鉄則①②をご理解されていないと、ご希望どおりの色にはならないので、それも含めて考えることになります。

染め替えで色を好まれる時は、センスの合うご家族やご友人と共に、信頼できる専門の方にご相談されるのも良いですね。そのうえで、「なれる色の中からなりたい色を決める」のがベストです。

 

また、どんな物でも経年により酸化して黄ばんで行きますから、若い時の着物を元の感じを残しつつ少し落ち着かせるには、薄い茶色や鼠色をかけたりしますが、

鼠色に「なりたい」場合には、反対色をかけたり或いは鼠色から下地の色を三割程度引いて調色したりします。ですから柄物の場合は、どの部分を押さえたいかを明確に呈示されるといいですよ。

同一の生地の染め分け

元々は白かった柄は、上からかけた色に染まります

参考までに、日本人の色調を黄色グループと、青色グループに大きく分けたとしたら、ご自分はどちらだと思われますか?

黄色グループ… 肌が黄色味、茶色味。髪やまゆ毛や瞳の色が茶色味。目の下のくまが茶色味。唇の色が薄目、オレンジ系。

青色グループ… 肌が白い。髪やまゆ毛や瞳の色が黒い。目の下のくまが青味。唇の色が濃い、赤い。

色を好まれる時に、その色を黄色か青色か、ご自分の色調の方に少し寄せると、しっくり合うので、顔色が明るく見えますよ。

また、年齢によっても変わって行くので色を決めるのは本当に悩みますよね。

「好きな色」と「似合う色」は必ずしも一致しませんが、着物の場合、半衿の白(又は色のあるもの)が肌の色との間に入ってくるので、そこで違和感を無くすことが出来ます。洋服も、衿元って大切ですね。

着物生地色比較

黄味のピンクと青味のピンク.単色ではどちらも「ピンク」と呼びますが,対比効果でオレンジ色と紫色に見えますね

染め替えなど、お近くに相談できる専門の方がおられない場合は、お気軽にご相談下さい。無料でリモート相談も対応させて頂きます。