♦通称で大島紬と呼ばれるものと、本場大島紬との違い―着物コラム―

日本には各地に優れた染物や織物があります。(ブログ日本全国どこへ行っても名産の染織品があります)

今回はその中の一つ、大島紬をご紹介致しましょう。

大島紬なら知ってるわ、持ってるわ、という方もおられるでしょう。しかし昨今では、紡いでない紬の呼び名として、なんでも大島紬と称するのが浸透しています。本家本元の大島紬は、フランスのゴブラン織、イランのペルシャ絨毯と並んで世界三大織物と言われているくらい精巧で機能的な優れものとして有名なので、その名が定着したのかも知れませんね。

その本場の大島紬の事を二週に亘ってお話致しましょう。

 

 

大島とは、この場合奄美大島の事を言います。伊豆大島も大島と呼称されますが、奄美大島も古くからそう呼ばれており、そこで作られた織物で、第二次世界大戦中に島民が疎開した鹿児島県本土や宮崎県の一部でも作られています。紡いでないのに“紬”と付くのは、元々が紬糸だったためです。

 

 

奄美大島という島は、鹿児島県と沖縄県の間にあり、よく沖縄県と混同されますが、鹿児島県に属しています。昨年(2021年)世界自然遺産に認定されたように、海水と淡水が入り混じる温暖な気候の独特な土壌と水に囲まれた島で、その土と水だからこそ染められるのが本場奄美大島の大島紬なんですね。

 

 

類似品は多くありますが、東京都の伝統工芸品の村山大島のように、発祥は大島紬を模して作られましたが、やがて一つのブランドとして定着したものもあります。(現在では逆に希少です。)

 

大島紬全盛の頃、韓国で作られた韓国大島もありました。人件費などのコスト削減のために作られ、一時は本場物と同じくらい出回ったようです。その他、全くの類似品も多くありました。反物でしたら、本場奄美大島の織り込みがあったり、伝統工芸士作は証紙が貼られていたりするのでまだ見分けはつきますが、着物に仕立てられていると見分けがつかないのもあります。

 

 

こちらの写真は一例です。

 

奄美大島の物は、産地である龍郷村の自然をモチーフにした、古くから伝わる“龍郷柄”のものが多くあります。龍郷柄は蘇鉄の実や、葉、ハブなどが図案化されています。その他にも「秋名バラ」、「西郷柄」、「割り込み柄」などもあります。

 

一般的な龍郷柄

 

しかし、同じ絹であり和服であれば、あの大島紬特有のつやと光沢のある、なめらかな手触りの織物は、染色が異なっていても総称として「大島紬」と呼称される事がよくあります。それはブランド名というより、生地名として通称が定着してしまっているようです。

撚りを掛けずに先染めの糸で織り上げるため水に強く、堅牢度も強ければ洗う事も出来るこの生地が、着物の世界において一つの革命を起こした証しでしょうか。そしてまた、軽くて雨にも強く縮まないため洗いやすく機能的である事から、雨の多い暑い地方で工夫をこらして考案された事がわかります。

 

 

ですから、呉服を扱うお店でも、奄美大島の物でなくても、通称として紡がない紬を「大島紬ですね」と呼ぶ事はありますが、それは他の言い方をするより共通的にわかりやすいからだと思われます。

でも、本場の、世界三大織物に挙げられている奄美大島の大島紬は、染めも織りも工程がすごいんです。繊細で緻密で、自然の素材だけを使った、世界に類を見ない製法で作られています。現地で実際に見たら感動するくらい、奄美のすべてが詰まっています。次回のブログでは「大島紬は二度織る」、「カラスの濡れ羽色」、「繊細な龍郷柄」の三つの特徴に焦点を当てて詳しく解説致します。黒が貴重だった時代に美しい艶のある黒をどうやって染めたのか?現地ルポです。楽しみにお待ちくださいね。

 

 

そしてその製法の前には、薬品は使えないし、化学染料による色補正も限界があり、染色補正は出る幕がありません。大島紬の再生には、裏面を使ったり、天地替えをしたり、リメイクしたりする繰り回しが最適です。

 

一度では語りきれない大島紬。その染織方法については、次回に詳しくお話致しますね。天然素材の大島紬は、カビも生えやすいので、もしお持ちでしたら、時々虫干ししてチェックして下さいね。もちろん、天然ミネラルの力でカビから守る、しるくらんどの「デオファクターキモノ」もお勧めです。