☆きものの後染めとは?絹の白生地の染色のいろはの「い」 ―着物雑学―

ブログ「先染め(先練り)・後染め(後練り)」でお話したように着物には先染めと後染めがあり、糸を染めてから織り上げるのが先染め、白生地を織り上げてから染めるのが後染めですね。今回は「後染め」の方に焦点を当てて簡単に解説していきます。使用する生地については、絹、麻、木綿などですが、主に絹の染色の説明になります。毛、ポリエステル、アセテートなどは該当しません。

 

――染めの種類――

 

絹の白生地を染める方法は幾つもあります。使う染料で言うと、ブログにも登場した藍染めや三度黒他、紅花染めなどの草木染めや媒染染めは染め方もそれぞれですから、ここでは化学染料での染色法の種類になります。

 

・引染(ひきぞめ、ぼかし染め含む)

・型染(かたぞめ)

・浸染(しんぜん、漬け染め)

・しごき染め(小紋染め含む)

・インクジェット

 

などが主だった種類です。

 

 

草木染めは歴史も古そうだし手間がかかってそうだしすごいな、とは誰もが想像されるでしょうが、それに比べて化学染料というと近代的でありがたみが薄れそうです。

ですが、実はこの化学染料にもいろんな分類と紆余曲折があり、原料不足や環境などの問題で廃止された染料もあり、出せなくなった色や希少な色もあります。また、インクジェットプリント以外は職人さんの手仕事による部分が多いため、技術の継承が成されていないと途絶えてしまう所もありますから、後染めも大変値打ちのある物です。

 

――染めの工程――

 

工程はもちろん方法によって異なりますが、どれにも共通する事を大まかに言うと

① 前処理(地入れ。✻どんな工程でも前処理の事を地入れという事が多い)

② 色を合わせる(調色)

③ 染める

④ 色止め(蒸し。蒸すのが一般的ですが、別の加工を施す所も稀にあります)

⑤ 水洗(みずもと。余分な染料を洗い流す)

⑥ 湯のし(仕上げ。イメージ的には、スチームアイロンできれいに整えたような感じになる)

 

絹の染色には、この六つの工程が最低限必要です。好きな色の染料に漬けておけば染まる、というような簡単なものではありませんし、どの工程にも一反一反その生地に合った調節が必要です。また、柄の無い無地染めならここから説明出来ますが、柄のある着物の場合、そのデザインや柄付けによってまた様々な方法があります。

 

――柄染めの種類――

 

・手描き友禅・型友禅・写し糊(小紋染め)・ローケツ染め・絞り染め 他

後染めの場合、主だった柄付けはこういった所でしょうか。引染めのぼかし染めや、ローケツ、絞り、などは柄付けと染めが一体化しているような感じもありますが、文様など絵を描く柄付けをする場合には、それぞれ多くの工程が必要になります。又、最終的に絵羽模様(着物を広げると一枚の絵になるように脇、背、衽など縫い目で絵がつながって、いるもの)になる物は、仮絵羽(かりえば)と言って、着物の形に仮縫いして下絵を描くため、染めの時には解き端縫い(ときはぬい)が必要になります。

 

振袖の仮絵羽(インクジェット)

 

また、柄(友禅)と地染めを別々に染める引染めでは、手描き友禅の地染めも染められますが、柄部分でも同じように地入れ、柄置き、彩色後の蒸し、そして糊伏せ、地染め、糊落とし、と工程が倍以上増えますし、

型染めは地色も柄も同工程中で染められますが、各色ごとに分けられた型を何枚も何十枚も彫る工程があります。

 

 

しごき染め。色糊を大きなへらでしごいて小紋を染めます。

 

――染めを請負う人々――

 

どの工程にも専門の熟練職人さんがいなければ、12m以上ある絹の白生地をむらなく綺麗に染め上げる事は出来ません。デザインごとに、どんな染め方でどの職人さんに依頼するのが一番ベストかを考えて、取り仕切るのが染匠さんです。人間国宝など、作家の方はお一人で(又はその工房の職人で)全工程をされる方もおられます。悉皆(しっかい)屋さんは染めはもちろん、髪飾りや白粉といった物からしみぬきまで、お客様の注文を悉く皆(ことごとくみな)応じた事からそう呼ばれるようになったそうです。

 

今回は、後染めの入門編ということで、本当に初歩的な事しかお伝え出来ませんが、どの染めも優れた所が多くある歴史と伝統の技術ですし、段々少なくなってきていますので、また一つ一つ解説してたくさんの方に知って頂けたらと思います。

そして私達染色補正士は、この後染めの着物においてその技を一番発揮するのが本来の仕事ですから、後染めをよく理解する事が基本でもあります。

 

でも一般の方には専門的でちょっと別世界ですよね。そこで次回はさらに身近にわかりやすく、これらを踏まえて「染め替えの利点、注意点」のお話をさせて頂きますね。