♢たんすの中で起きる 四つのガス焼け ― 着物生活 ― 

ガス焼け、という言葉を聞かれた事はおありですか?ネットで検索すると、何やら工業的な難しい文面が出てきました。もちろんこれのことではありません(笑)。

 

一ツ身に発生した畳み焼け(背面)

一ツ身に発生した畳み焼け(背面)

私達しみぬきの世界で言うガス焼けとは、ガス(何らかの成分を含んだ気体)に長期間触れ続ける事によって、焼け(変色)が生じてしまう現象と言った所でしょうか。煙で燻す燻製のような状態とも似ています。

ガスとは、物体でも固体でも液体でもなく気体ですから、匂い・煙、また無色無臭の場合もあります。ここでは、着物の保管時に起きるガス焼けの解説を致します。もちろん和服だけでなく、衣類全般に該当する事です。

 

 

ーー 保管時に起きるガス焼けの4つの代表例 ーー

 

① ストーブ

きれいに畳んでたとう紙に入れて、何年もたんすに仕舞っておいたのに、年数を経て取り出すと、その畳んだ線の形に変色や褪色、つまり焼けていることがあります。

これは部屋及びたんすの中に充満した酸化窒素ガスや亜硫酸ガスが原因で、早い話がガスストーブや石油ストーブを使用して換気があまり行われていないためなので、寒い地方に多いと言われています。着物にとっても換気は大切ですね。

ガス変色しやすい箇所

畳まれたラインに変色が出ます

②  匂い袋

匂い袋をたんすの同じ位置に長年置きっぱなしにしていると、その周辺に赤っぽいぼかしたような変色が、ひどい時には生地を突き抜けてたとう紙まで変色している事があります。割りとよく見かける物で、どれも同じ種類の匂いが強く香ってきます。匂い・香りは専門ではないので詳細は分かりませんが、何種類かの成分を配合して作られていると何らかの化学反応が起きる事も考えられますし、香水やアロマのように強い香りはとれにくい物です。古来、日本の匂い袋は防虫剤として使われていたくらいですから、その成分も強力です。しかし気密性や着る回数が古来とは全然違うため、注意しないと着物は、その成分に触れ続ける事になってしまいます。

匂い袋はほのかに香るくらいがちょうどいいので、着物に直接置かず、同じたんすの離れた引き出しに入れるなどされてはいかがでしょうか。帯など、素材によっては薬品や水が使えずしみぬき出来ないものもあり、出来たとしてもとれない場合があります。

白大島に出たガス焼けbefore

白大島に出たガス焼け

白大島に出たガス焼けafter

補正後

③ 硫黄

硫黄分が発生する状態の所に保管されていると、様々な故障が起きます。ゴムやウール、紙などのいずれも粗製な物は加工段階で使用された硫黄分を含む薬剤が残留している事があります。また、石油ストーブの燃焼ガスにも硫黄は含まれています。そういった身近にある硫黄が発生する物の近くに長年保管されていると、錆びに関するブログにも書いたように、銅は緑青(ろくしょう)と言って緑色になり、銀は硫化銀と言って黒くなります。ほとんどの場合直らないので、金糸や銀糸の含まれている帯や着物は特に注意しましょう。

緑青錆び

緑青錆びが移っています

硫化銀による変色

銀糸の帯に出た黒ずみ(硫化銀)

④ 防虫剤

防虫剤は、虫を殺傷する効果があるくらいのガスが出ている、という事をお忘れなく。無色無臭の盲点です。防虫剤には、金彩のバインダー(生地と金彩を繋ぐ糊着剤)を軟化させて溶かしてしまう成分のものがあります。故障にはバラジクロールベンゼンという成分の臭いがあることが多いとしかわかっていないようです。バインダーにも色々な種類の配合がありますから、その殺虫成分の配合と、バインダー成分の何と何が反応しているなどの詳しいことはわかっていません。故障が起きる場合はたくさんの防虫剤を使用されてるとも思われます。

しかし、絹はウールと違ってそれほど虫に喰われません。特に精練してタンパク質のセリシンが取り除かれた絹は、虫の害はほとんどないのと、金彩が置かれているような着物は、大体精練された着物です。防虫剤は必要ありませんよ。防虫剤は生地との相性を考えて、何種類も併用せず、正しく使用しましょう。

織物の虫害

「そこが知りたいQ&A」より

いかがでしょうか?事例は一つ一つ違いますので詳しく解明されていない部分もまだあります。細かい事を言いますと火事の煙など、レアなケースのガス焼けもあります。ですが大きく分けて、

①ストーブ、②匂い袋、③硫黄分、④防虫剤

によるガス焼けがやはり多いので、ここを押さえておけばかなり防げます。そしてどれも一番効果的に防ぐには、

 

「定期的にたんすから出すこと。出来れば虫干しすること。」

 

そして、着ることです。それが着物を長持ちさせるコツです。

ちなみに、除湿剤や乾燥剤といったアイテムも同時によく使われますが、石灰や塩化カルシウム(冬場の道路脇にある凍結防止剤と同一)が使用されている場合、その水溶液は強アルカリになるため注意してください。特に容器に液体が溜まるタイプの除湿剤は、その液体をこぼさないように注意してくださいね。それは水ではなく、高濃度の強アルカリ液です。

 

また、しるくらんどには今年から「デオファクター・キモノ」という天然ミネラルで抗菌・防臭・防カビの出来る最新の加工が生まれました。こちらも無色無臭ですが、空気中の有害物質を分解してくれます。保管に心配な方はぜひご相談くださいね。