♢衿の型くずれの直し方・着物の衿の中はこうなっていた!―着物生活―

前回は、着物の衿の中の構造についてお話致しました。着物の衿の中って、たくさんの生地が重なっているんですよ。表地だけでも、地衿と掛け衿、身頃、衽。それをたたむと、✕2になります。袷の広衿ですと、そこに裏地の衿、身頃、衽、が重なりますし、こちらもたたむと✕2になりますから、もう何枚になる事やら(笑)

それと三つ衿芯。

そしてこれらの生地同士の相性によって、滑りにくい場合と滑りやすい場合もあり、滑りやすいと型くずれも起きやすくなります。今回はその原因と対策です。なぜそうなる着物があるのでしょうか。

 

目次

  1. 型くずれの原因
  2. 衿の中閉じのやり方

 

 

――型くずれの原因――

 

中に仕舞われている生地がずれたり折れたり、シワになったりするから、型くずれが起きてゴロつきが出るので、お仕立ての段階で衿の中は、様々な工夫を凝らして型くずれを未然に防ぐ“縫い代の始末”がされています。

つまり動かないように留めてある「閉じ」がされていて、そのやり方は和裁士さんによっても違うし、素材や寸法によっても違います。伸びにくい固い生地の場合は、耳に小さな切れ目を入れたりアイロン(コテ)でカーブをつけて生地に沿わしたり折り目を入れたりして、美しく納まる工夫をしてから、丁寧に留めて、胴裏(衿裏)をつけてあるので、そうした着物は安心して着用できます。

 

が、型くずれが起きている着物は、この“縫い代の始末”がされていないんですね。これまでに何十着もの着物を解いてきまして、丁寧に仕立てられている物は衿の中閉じも、ここまでしなくても…と思うくらい細かくされているのも見たことがありますし、いろんなやり方があるなぁと感心致しますが、

型くずれが起きているものの原因は1つで、閉じが100%されていません。されていても1、2ヶ所だけだったり、目が粗すぎたり、下の生地まで糸が通ってなかったりして、きちんと閉じられていないんです。ひどい時は、三つ衿芯まで動いてずれているのもありました。

 

 

 

どんなに立派なお着物でも、お仕立てが丁寧にされていないと、こんな風に台無しになってしまいますし、衿元が不細工になったり、着崩れの原因になったりします。そういう着物は例えばわきや袖底など、他の部分の縫い代の始末もされていなかったりします。優秀な和裁士さんは、そうした見えない所も丁寧に手を加えて、いつまでも着やすい着物を仕立ててくださいます。

 

――衿の中閉じのやり方――

 

衿の手触りに違和感、ごろつきを感じたり、上前(左)の衿と下前(右)の衿に違いを感じても、着用に差し支えなければ、そのままにされても大丈夫です。が、やっぱり気になる、これじゃ着にくい、という場合は、信頼できる呉服店や百貨店に相談しましょう。もちろんしるくらんどでも承ります。

でももし、お裁縫が得意だから自分で直したい、という方はこちらの写真を参考にしてください。

 

 

型くずれが起きない仕立ての衿の中は、綺麗に整理されていて、左右(上前と下前)が同じ状態になっていることが多いです。整え方はいろいろありますが、よくあるのはこういう整え方です。つまり、こうなっていなければ中で事件が起きているということになります。衽の端は長く残っている場合もありますし、短い場合もありますが、三つ衿芯の内側に身頃の端があり、その上に伸ばして留めます。そして衿の外側の端でくるんでたたみ、それも閉じ付けて裏地をくけます。その位置関係がわかれば、軽いものならば解かなくても、例えばレース針などの細い棒で生地を整える事も出来ます。ですが、ますます深みに落ちる事もありますよ。解いた方が安全かも知れません。それほど難しくないので、お教え致しましょう。

どちらにしろ、自己責任でお願いしますね。

 

折れているのが外からでも分かります。

 

 

ほどくのは折れている所の縫い目の横です。

中閉じはしてありますが、目が粗すぎて中の生地が折れています。

 

 

解くのは、写真のように、その型くずれの場所の外側の端です。衿の縫い付け部分の方は、間違えて違う糸を切ってしまって衿が外れたり、身頃を傷つけてしまったりという危険がありますから、解かないでください。

そして仕舞ってある生地を正しい位置に戻して(出来ればアイロンで伸ばすけど蒸気や水の使用は技術が必要なので無理にはしない方が良い)、滑らない木綿糸でずれそうな所を留めます。あまり細かく縫わなくても綺麗でなくても大丈夫です。それよりも、きつく縫ってたわみができたり、吊ったり、表に糸が出たり、血をつけたり汚したり、といった事にご注意ください。

 

別の着物ですが、クリアファイルや下じきをはさむと下の生地をひっかけずに縫えます。

 

そして解いた所をくけ縫いすれば出来上がりです。衿は直線状の生地がカーブする場所なので、くける前に試着してみると、ここ閉じ過ぎたな、とか、まだ閉じても大丈夫かなとか、気付けるかも知れません。大丈夫なら、くけてください。

 

表に針目が出ないよう、生地を交互に針を通して行きます。

できあがり。スッキリしました。

 

お仕立ての職人は、素材や形によりどの部分をどれだけ閉じるかを判断したり、こうした“ゆるみ”とか、“張り”を、長年の経験で手の感触で加減して、直線の生地が美しく納まるように仕立てています。それも本やDVDだけでは身につかない真の技術の一部なのですね。

 

しるくらんどでは、お手入れの際も、衿の型くずれでお仕上げが整わないような場合には、サービスでできるだけお直ししてお仕上げしています。ほとんどの場合、解かずに整理致しますので、衿の違和感を気にされている場合はご相談ください。きちんと中閉じのやり直しを希望される場合は、有料にて承ります。

 

そしてもちろん、しるくらんどでお仕立てされますとそのような事件は起きません。大切なお着物のお仕立ては、安心して御用命ください。